« 句集「方今」 | トップページ | おくのほそ道 »

2014年1月30日 (木)

デコちゃんの「わたしの渡世日記」

映画「24の瞳」「細雪」「喜びも悲しみも幾年月」「カルメン故郷に帰る」等々多くの映画に出演し、美貌と名声をほしいままにした高峰秀子(愛称デコちゃん)。其の高峰秀子著「わたしの渡世日記 上・下巻」(文春文庫)、2冊で770ページに及ぶので多少辟易したが、思わず引きずりこまれて読んだ。彼女が養女に貰われてくるいきさつから、偶然のことから5歳で映画の子役になり、それ以後も芸能界、とりわけ映画の世界で生きてきた半生が描かれている。
Photo_3

彼女の経歴はさぞ燦然たるものであろうと思っていたが、期待は裏切られた。実父と養父それに第3の父親として名乗りを上げた東海林太郎を始め、数奇な運命を辿って転々とし、ハイエナのような養母、ダニのような縁故者等にたかられて、稼いでも稼いでも吸い取られてゆく有様は、『なかにし礼著「兄弟」文芸春秋社刊』の中の、礼が兄に食い荒らされてゆくのと似て哀れである

そんな境遇の中で、正規の学校にも行かれなかったデコちゃんが、「わたしの渡世日記」の中で、惜しげもなく自分をさらけ出し、率直に自ら辿ってきた人生をこんなにも上手い文章で書ける筆致は一体何処から生まれたのかと思わず目を疑いたくなるほど人を惹きつける。勿論書き屋の書いたものでないのは、沢木耕太郎氏の「解説文」を見れば頷ける。

 

華麗な人脈には一驚する。一寸挙げただけでも、新村 出・谷崎潤一郎・梅原龍三郎・志賀直哉・宮城道雄・奥田良三・川口松太郎・藤山愛一郎等々を始め多士済々である。

勿論映画関係者の山本嘉次郎・小津安次郎・木下恵介・市川昏・成瀬巳喜男監督、特に養母によって仲を引き裂かれることになる黒沢明監督、夫となる松山善三との出会い。花柳章太郎・大河内伝次郎・森雅之・徳川夢声・滝沢修・原節子・三浦環・田中絹代・岡田嘉子・入江たか子・等々挙げればきりがない。

 日本初の総天然色映画カルメン故郷に帰る」は、今も鮮烈に私の記憶に残っている。「現在のカラーフィルムの感度は100以上だが、当時のアーサーはたったの6度、よほどの光量がないと感光しない。第一、2時間ほどの長編映画の色が果たして統一できるかどうかさえ危ぶまれる頼りなさだった」そうで、其の中で技術陣や演技者らの苦心談が披露されているが、私などはそんな苦労も知らずあの映画を楽しんでいたのを思う。


 沢木耕太郎氏は解説の中で『高峰秀子の文章を特徴づけるのは、他者を描く時の的確さと、自己を描く時の突き放した態度である。自分に対して決してベトついた書き方はせず、常に自己を相対化しようと努めている。それはごく一般的な女性の書き方とは際立って対照的な態度といえる。自分の苦しみや悲しみは諧謔を用いたり、照れて「ズッコケる」口調を用いることなしに語ろうとしない』と述べている。

|

« 句集「方今」 | トップページ | おくのほそ道 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/99342/59037004

この記事へのトラックバック一覧です: デコちゃんの「わたしの渡世日記」:

« 句集「方今」 | トップページ | おくのほそ道 »