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2013年10月17日 (木)

句集「晴朗」

 俳誌・白魚火(しらをび)の仁尾正文主宰の句集「晴朗」を、前ニ句集を想い起こしながら読んだ。

Photo_2 「あとがき」に、『本句集「晴朗」は、「山泉」「歳々」に続く私の第三句集である。句集名は

 晴朗にして風強き建国日

から取った。

 明治三十八年五月二十七日は、東郷平八郎を連合艦隊司令長官とする日本海軍と、欧州を出発して海路六万粁を七ケ月もかけて遠征してきたロシアのバルチック艦隊が日本海で会戦し、完膚なきまでにロシア艦隊を撃滅し、日本の国土と民族の滅亡を救った日である。司馬遼太郎の「坂の上の雲」によると、旗艦「三笠」の参謀秋山真之はこの日、連合艦隊の出撃報告を大本営にすべく若手の参謀に案文を作らせた。「敵艦見ユトノ警報ニ接シ、連合艦隊ハ直ニ出撃、之ヲ撃滅セントス」とあった。秋山はこれに「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」を加えて打電した。秋山も天候を大いに案じ、毎朝大本営を通じて送ってくる予報を見ていたが、この二十七日の予報は「天気晴朗なるも浪高かるべし」であった。これを「浪高シ」とし作戦用語を文学に変えたと称賛されたが確かに「浪高シ」は俳句における切れ字の如く声調が潔い。

 本句集名を「晴朗」としたのは、秋山真之の明朗な電文のひびきに魅かれたからである。』と述べている。

句集は、白魚(平成十三年~十五年)、桐の花(平成十六年~十八年)、鵙の贄(平成十九年~二十一年)、花八手(平成二十二年~二十四年)の4章から成っている。

 白魚火俳句のモットーは

  わが俳句足もて作る犬ふぐり  西本一都

で、本句集も将にそれを地で行った感のある句集と言えよう。

  白魚の目にしろがねの縁のあり

  結束を緩めたるらし花筏

  鵙声を絞るたび尾羽動きけり

  萍に一分の隙もなかりけり  

  愛(は)しきやし十一月の朝顔は

等はじっと対象を見つめ鋭い感性で捉えた句と言える。

  天気図のロンドンは雨うなぎの日

は、確か席題句会で「うなぎの日」が句会メンバーの一人から出された時に生まれた句だったと記憶する。

  北岳に真向きて飛蝗翔ぶ構へ

  一塊を追うて一塊滝落つる

  万緑の木曽裁ち割つて川流る

  猿柿や飛騨街道に幾峠

  かすか尾が動きし気配鵙の贄

  美濃信濃嶺を連ねて冬に入る

等々自然と親しみながらの旅吟が多い。

  花散るや杉皮入りの吉野和紙

  助走つけ大噴水の揚りけり

  松手入れ猿臂伸ばせるだけ伸ばし

  盆唄のかくも高音の男ごゑ

も亦、人の世の営みを写して巧みである。

  法螺貝の谷渡りくる山桜

  江商の家訓こまごま釣忍

  巫(かんなぎ)の髪を束ぬる真麻(まそ)すずし

  乾杯の枡に杉の香実千両

  火の神(カムイ)水にも神夏炉焚く

  藩校は今も名門桐の花

  勝馬に余勢まだあり草競馬

  風の意のままの這松ななかまど

  東司にも洋式があり養花天

  冬田過ぐ又冬田過ぎ旅い行く

  草競馬跑足(だくあし)とふを初めて見

  墓は伝金売吉次狭霧濃し

  冬雁の一羽落つればことごとく

に至って、足もて作るの面目躍如たるものがある。

  碑にいのちを入るる桜かな

は、平成15331日、ご自身の句碑除幕の際の詠。

  神集ふくにに始まるわが俳句

  直系の男の子なりけり入学す

には感慨が籠もる。

  米寿とて通過点なり青き踏む

は、白魚火発展のため手を組んで苦労してきた同志であり同人会長である鈴木三都夫氏の米寿を祝っての詠。

  朝顔や波郷いませば白寿なる

  為書の色紙を賜びき波郷の忌

  花八手波郷は今も五十六

は、遠く波郷師追慕の句であろう。

  冬といふ字に贅肉のなかりけり

は、冬という字をほぐして詠みながら、戦中戦後を厳しくも逞しく生きてきたご自身の来し方への感慨を込めた詠か。

  晴朗にして風強き建国日

は、あとがきにもあるように句集名ともなった句である。

  麦秋のこの郷愁はいづこより

  先師の書曝し初心の頃思ふ

には、仄々とした人間愛を感じる。

 以上、句集を読んでその一端を想いのままに述べてみた。

冒頭にも述べたように、白魚火のモットーは「わが俳句足もて作る犬ふぐり 西本一都」で、本句集はそれをまざまざと感じさせてくれる。

久々に快い読後感を頂いた。

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