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2013年4月 5日 (金)

句集「船籍」

島田愃平著、句集「船籍」を頂いた。句集名の「船籍」は、

   船籍は遠き紀の国鰹揚ぐ 愃平

による。掲句は平成10年、御前崎市に於いて行われた白魚火(しらをび)全国俳句大会に於いて、時の荒木古川主宰の特選1位に輝いた句と聞く。
Photo_2島田愃平氏から紹介された本が2冊ある。何れも聖隷事業団に関与する本でその内の一冊は、長谷川保著「夜もひるのように輝く」である。
全国的にも知られている聖隷病院の創立者である長谷川氏とは私は数回会っているが、長谷川氏の人格に影響された人は少なくない筈だ。この書はそれを端的に表している。

もう一冊は、その聖隷福祉事業団の源流を掘り下げて纏めた本で、蝦名賢造著「聖隷福祉事業団の源流~浜松バンドの人々」と題する590頁を越す大冊である。
Photo_3 その中で島田氏の果たした役割りは極めて大きい。
蝦名氏が「実は、島田愃平氏との出会いと協力がなかったなら本書は誕生していなかった。島田氏の全面的な、献身的な協力によって、本書は八年の歳月をかけて取り纏められるに至ったのである。云々」と記されている。

私は、島田氏に「これは蝦名氏との共著でも良かったのではないか」と言った。彼は「実は蝦名氏からもそんな話があったが、あれで良かったんです。」とあっさり答えたものだが、その辺のいきさつに就いては、奥様の「島田愃平のこと」と題するあとがきに詳しい。

彼は若くして結核を患ったが、持ち前の芯の強さから克服してきた。清瀬病院での出会いとなった、俳人の古賀まり子氏とは生涯の俳句仲間となる。

私は彼と話がよく合った。俳句に纏わる話が中心になるが、奈良や京都の話になると、「古寺巡礼(和辻哲郎著)」にも及び時間の経つのも忘れて話し込んだものである。

前置きが少し長くなった。
句集の序文では、白魚火誌の仁尾正文主宰が愃平氏の一面を記している。

句集は、「序、カトレア、条幅、新豆腐、桜鯛、島田愃平のこと、あとがき」の順に纏められ、「序」は仁尾主宰が、「島田愃平のこと」と「あとがき」は、島田氏の奥様が書かれている。

写生が忠実にかつ綿密にしかも判りやすい。
   はるかなる山の裾まで青田かな
   カトレアを置きし出窓や湖光る
   床の間の軸は一文字夏座敷
   尾びれまでマリンブルーの熱帯魚
等、気負いもなくすんなりと詠み上げている。
   船籍は遠き紀の国鰹揚ぐ
   三尺寝傍らに置くヘルメット
   句碑除幕終へて迎へし万愚節
   残されし時は少なし根深汁
   義朝の墓の木太刀や涅槃西風
義朝の句は、私とN氏とを加えた同行3人での吟行句。行こうか、そうだね位の話でまとまって、JRと名鉄を乗り継いで知多半島の先端まで出かけ、帰りには浜松駅前のフォルテ(今は遠鉄デパートになっている)で3人だけの句会をしたのが懐かしい。
食べ物の句が出たら愃平句だと言われるほど、食物通だった。グルメの愃平だった。
   今朝摘みし花をほぐして菊膾
   朝市や新沢庵をつまみ食ひ
   匂ひだけ嗅がせてくれし茸売り
   名物の牛タンのせし麦の飯
   一箸は醤油もつけず新豆腐
毎月一回、席題句会を行っている。席題句会とは、句会で指名された人が、その場で季語二つほど適当に提案し、句会参加者はその季語でその場で即興的に作句するもので、一箸は…の句はその時に作られた秀句である。
ご家族特に書道をよくされる奥様を詠んだ句には愛情が溢れている。
   入口に餅花飾る書道展
   遠出して祝婚の日のかぶら蒸
   条幅を書きゐる妻や汗光る
   病む妻へ麦茶届けを日課とす
   金目鯛子らに招かれ伊豆の旅
傍らから見ると何処にあのような精力的な動きが出来るのだろうかと思わせる海外旅行があり、宗教がらみの敬虔な祈りの海外旅行も多かったようにお見受けする。
   長江を下る勤労感謝の日
は長江がダム建設で様相が一変する前にとの想いから
   僅かなるワインに酔ひし白夜かな
   マッターホルン雪渓の上に月のあり
健康には当然気をつけて
   いつもなら午睡の時間夏期講座
   朝夕の腹式呼吸鰯雲
   座敷にも風の道ある昼寝かな
   古稀までを生ききし不思議犬ふぐり
   一合は吾には致死量冷し酒
   わが薄き胸にはりつく雪蛍

平明に単純に判りやすくしかも切々と胸に訴えかけて来る句集である。
遺句集になってしまったのが切ない。

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