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2012年3月30日 (金)

新しい命

今から約50年前のある朝、突然家の前にトラックが停まった。

降りて来たのは、職場の先輩で尊敬する富田さん。「今度家を引っ越すので、良かったらこの木をお宅の庭に植えてくれませんか」と言う。
見れば大きな土の鉢をつけた、松の木、茱萸(ぐみ)の木、それに細葉の三本。

富田さんは、楽器の木製部品などの機械加工方法を次々と自動化する特殊技術の持ち主で会社にとっても貴重な存在で、後に黄綬褒章も受けている。
寡黙な技術屋で、曲ったことが大嫌い、上司に媚びるような人や、保身の術に長けた人とは口も利かないような一徹な所もあった純粋な人だった。

正規の学校を出ていないので、機械の設計図は必ずしも完全な製図ではなかったが、時の工作部門もそれを承知でちゃんと加工し、立派な機械に仕上げてくれた。比較的コンパクトな機械だがそれが実に良く働いてくれた。長年この部門で働いてきた人の知恵の結晶のようなものだ。

その富田さんの唯一の趣味は盆栽を始め、庭木をいじることで、庭には所狭しと植えられていて、時々植え替えたりするので、大きな木の根っこは土の鉢になっていた。

頂いた木は我が家の庭に立派に育った。その後我が家が現在位置に転居したので、その木も移転させた。
ご好意で頂いた木を枯らさないように植木屋も細心の注意で移植したので見事に根ついて、今も我が家の庭を賑わせている。

その木の内、茱萸(ぐみ)の木も老木化したが、根元から糵(ひこばえ)した枝にルーペで見るような芽が付いているのに気が付いた。

Img_2752 新しい命の誕生を目の当たりにしたように感じて、小さな芽が愛しかった。
芽は小さいがやがて葉が出、糵(ひこばえ)の幹も大きく育ってくれることを信じている。
富田さんも天上から見ていてくれるだろう。

松は今も門かぶりの松として、細葉も庭の一隅に生き生きと命を輝かせている。

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