« 句集「熊の皮」 | トップページ | 馬醉木創刊90周年 »

2011年9月15日 (木)

妖しき運命(さだめ)

手許に『対米中開戦に反対した二人と「妖しき運命(さだめ)」』と傍題のついた、原山茂夫著『栗林忠道と今井武夫物語』(ほおずき書籍)がある。Photo 栗林忠道は、梯久美子著「散るぞ悲しき 琉黄島総指揮官・栗林忠道」(新潮社)で広く知られるようになった陸軍中将(後、大将)であり、今井武夫は陸軍少将で中国通として知られ徹頭徹尾不拡大方針を貫き通しながら、妖しき運命に翻弄されながら自己主張を貫き通した気骨ある軍人だった。

本書の目次によると、
   プロローグ
   第1章 二人の生い立ち
   第2章 二人が軍人になった時代ーそして「妖しき運命」
   第3章 運命の満州事変ー「今井は、中から見ていた」
   第4章 日中戦争と今井武夫
   第5章 太平洋戦争と中国での停戦・復員と今井
   第6章 日中戦争・太平洋戦争と栗林忠道
   第7章 硫黄島戦の栗林忠道と戦後の今井
   エピローグ
の各章からなっている。
特に努力型の栗林、秀才型の今井の、生い立ちから軍人として自己の信念を貫いてゆく過程には心打たれる。

運命の満州事変から太平洋戦争に突入してゆく過程に就いて、強硬派から目の敵にされ生命の危険を感じながら、今井の果した役割に就いての記述は特に詳しい。「統帥権」を楯にした一部軍の暴走。出先機関である関東軍の動きをコントロール出来なかった国家としての機能喪失過程、不拡大方針のために、今井が懸命に中国要人と政策的組織を築いてゆく努力を片端から崩してゆく統制派強硬派との抗争過程等々。

栗林は陸士入学前、佐久間象山の「せいけん録」を学び、象山の言葉に感動し「自分も陸士に合格し一国に繋がってきているではないか」との自覚を深めたという。
東条最後の懲罰人事も従容として受けながら、「大本営には一刻も早い和戦を要請し、できれば米軍に大損害を与え、米国の世論を和戦の方向に誘導したいものだ」と考え、事実そのように行動した。このことに就いては「散るぞ悲しき」に詳しいが、米軍が「5日で陥落させる」と言った硫黄島での組織的戦闘は米軍上陸後36日間も続き、戦死傷者の数では日本軍20933人、米軍28686人で太平洋戦争の島々の戦いで、米軍の損害が日本軍より大きかったのは唯一、硫黄島の戦いだった。「国の為重きつとめを果たし得で、矢弾尽き果て散るぞ悲しき」の辞世の短歌の冒頭の句の末尾「散るぞ悲しき」の部分は、大本営によって「散るぞ口惜し」と改ざんされて新聞発表された。

栗林と陸士同期で、同じ時期に豪州に近い小島十五のメレヨン島守備隊長となった北村勝三少将は、兵士と島民を大事にして兵の士気を鼓舞したが、補給路の途絶と非衛生的な環境下での1年余の砲爆撃下で栄養失調死約五千を失い、上陸作戦なしで終戦を迎えた。昭和22年(1947)8月15日に、母校長野中学を足下に見下ろす旭山で割腹自決して責任を取ったことを本書では小さく伝えている。

三人とも旧制長野中学の出身だった。そして太平洋戦争に至るまでの過程を本書で具体的に知るにつけ、改めて「国家とは何か」に就いて考えさせられた。

|

« 句集「熊の皮」 | トップページ | 馬醉木創刊90周年 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/99342/52734713

この記事へのトラックバック一覧です: 妖しき運命(さだめ):

» 人間の評価: (7)秋の叙勲・栗林忠道① [佐久間象川]
昨年、▲「人間の評価に付いて(6)秋の叙勲」、を書いて、もう1年経った。 間も無くまた、秋の叙勲の時期である。 今回は、栗林忠道大将の記事を書きたい。 [続きを読む]

受信: 2011年9月16日 (金) 01時47分

» 人間の評価: (7)秋の叙勲・栗林忠道② [佐久間象川]
我々が歴史から学ぶべき事の一つは、 「誰が何をしたか」、だけでなく、 その「何をするような人間」が「どのようにして生まれてきたか」、を知ることであろう。 [続きを読む]

受信: 2011年9月16日 (金) 01時49分

» 日米開戦70年(2) [変人キャズ]
日本をあの戦争へと導入した政治家、官僚が無見識だった   のは勿論だが、そのうえ彼等の戦中・戦後の言動   を見ると、無恥で無責任な者が多かった。 それに対して戦争を避けるように主張した人達は皆、   心ならずも突入した戦争の最中でも、国のために   最善の途を求めて誠実な努力を重ねた。... [続きを読む]

受信: 2011年12月20日 (火) 03時00分

« 句集「熊の皮」 | トップページ | 馬醉木創刊90周年 »