« 企業と経営者 | トップページ | 句集「放神」 »

2008年3月10日 (月)

教師、生徒とその父

我が家から北へ5kmほどの所に今年もたった5本だが河津桜が咲き始めた。
この地は、農経高校という農業の後継者育成を目的にした歴史のある農業高校の跡地で、昔はその高校へ静岡県全体から生徒が集まってきていたが、少子化と農業後継者の減少の波に抗いきれず、一昨年廃校となり、他校と合併されてしまった。
廃校から一年後の去年には元あった校舎は跡形もなく取り払われ更地となってしまった。広大な三方原台地の一角には記念碑他と5本の河津桜だけが残り、歳々年々今頃になると綺麗な花をつける。

  昨年の今頃、その桜が咲いたと地元新聞にも報ぜられていたのを偶々目にしたので行ってみた。この学校は私とは何の関わりも無い学校だが此処の卒業生や関係者はどんな想いでこの桜を見ているのだろうかと思って、
    落花霏々更地となりし母校跡
と俳句に詠んだ。
Photo

ところが、この俳句が、昔この学校の校長先生を務めたH氏の目に留まった。
H氏は或る会合でそのことに触れ、「昔の教え子の中に伊豆の方から来ていた生徒がいて、卒業後家業を継いで立派な農家になっていたが不幸にも夭折してしまった。そのお父さんがある日学校を訪れて、息子がご厄介になったが何のお礼も出来なくて申し訳なく思っていたが、出来れば息子の思い出に河津桜を校舎の周囲に植えさせて貰えないかと言う。その時の桜が今はこんなに立派に花を咲かせている」という所まで話したところで、暫く言葉が途切れ、感極まって泪を流していた。昔奉職していた時分のことが頭を過ぎったのであろう。
その時、同席していた私を含めて20名ほどの人たちも、黙然として暫しの時間が経った。やがてH氏は「つい昔の事を思い出し、お見苦しい所をお見せしてしまって申し訳ありませんでした。」と言った。聞いていた者も心の籠った教師と生徒とその父親の話に心を打たれた。

H氏の話に依れば最初に植えたのは20本ぐらいだったが、廃校時、今咲いている5本だけが残されたという。

こんなご縁があったので私は昨日(3月9日)、7分咲き位だったその桜(写真)と周辺で思い出のありそうな写真を撮ってH氏へ送った。(蛇足ながら今日は3月10日である)。

|

« 企業と経営者 | トップページ | 句集「放神」 »

コメント

毎日新聞の3月22日の「発信箱」というコラムに「イマジン」という題で社会部の記者が書いた一文があります。
それを読んでいて、私はAlpsさんのこの記事を思い出し、全宇宙の歴史に較べれば本当に短い、この人生でご縁のあった人を想う切ない気持ちの尊さを噛み締めていました。

投稿: 二人のピアニスト | 2008年3月26日 (水) 14時32分

コメント有難う御座います。
Hさんは寡黙な人で、生徒から見ると現役時代は恐らく厳しい校長先生だっただろうと推察されます。彼の句に
  叱らざる父の落せし咳ひとつ
というのがあるがお母さんは厳しかったそうです。親との出会いから人生は始まり、光年の一瞬に素晴らしい人との出会いを得られるのは有り難いことです。

投稿: Alps | 2008年3月27日 (木) 07時43分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/99342/40450177

この記事へのトラックバック一覧です: 教師、生徒とその父:

» 戦争を知らないわが孫に(2) [二人のピアニストに思う]
1945/8までの日本には、自分の生命を犠牲にして部下の生命を救おうとした上司、が居た事を我々は語り継いでいかなければならない、と前記事に書いた。 あの時代を生きた人間は、自分では真似は出来なくても、その様な人が居る事を知っている。 その後の世代の人達には、その様な人の存在は、信じられないと思う。 多少赴きは異なるが、大西滝次郎中将もそうであろう。 上記の”東条英機暗殺の夏”には、無謀な戦争を早く終結させようと尽力する人達が大西中将を仲間に入れようと説得するのだが功を奏さなくて、些か大西中将を分... [続きを読む]

受信: 2008年3月14日 (金) 05時23分

» 薬害エイズ事件の判決 [変人キャズ]
産官学の構造的癒着が生んだ薬害事件では、 1983/7に、帝京大病院で血友病患者がエイズで死亡、1989年に薬害HIV感染者からの賠償請求提訴があり、1996年に検察側は東京地検が安部英・元帝京大副学長と松村明仁・元厚生省課長を逮捕、大阪地検は旧ミドリ十字の歴代3社長を逮捕した。 その後の永い訴訟の経過の中で、安部元副学長と川野元社長は公判中に死去し、血友病患者への投与では有罪判決が一度もないまま終了し、肝臓病患者への非加熱製剤投与では実刑判決が確定し、 当事者でないとその経過の記憶...... [続きを読む]

受信: 2008年3月14日 (金) 05時25分

» 教師、生徒とその父 [二人のピアニストに思う]
Cogito, ergo sum ブログの3月10日に、教師、生徒とその父、という記事がある。 このブロガーAlps氏の住む浜松の地にあった農経高校という農業高校が廃校になり、元あった校舎は取り払われ更地となってしまったが、跡地である三方原台地の一角に、記念碑と5本の河津桜が残っている。 実は、その桜は、其処にあった高校の、ある卒業生が、「家業を継いで立派な農家になっていたが不幸にも夭折してしまったので、そのお父さんが学校の同意を得て、息子の思い出に河津桜を校舎の周囲に植えたもので、今は立派に花を... [続きを読む]

受信: 2008年3月28日 (金) 12時54分

« 企業と経営者 | トップページ | 句集「放神」 »