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2008年1月13日 (日)

大岩壁へ挑戦するクライマー夫婦

1月7日の夜10時から1時間、NHK総合TVで「NHKスペシャル:白夜の北極圏・高さ1300mの大岩壁に挑む伝説のクライマー夫婦」と題する放映があった。

その夫婦とは、世界最強のクライマーと言われる、山野井泰史・妙子夫妻である。白夜の北極圏グリーンランドの高さ1300mの大岩壁に挑む夫妻の姿と夫婦愛を映した感動のシーンである。

山野井泰史・妙子夫妻のことに就いては、既に「活字上での再会」、「そこに夢があるから」、「続、そこに夢があるから」に紹介した事がある。
山野井夫妻の属する日登(日本登攀クラブ)の先輩に当る、根岸利夫氏の山小屋へは今も時々岳人達が訪れるが、その中に山野井夫妻も時々顔を見せる。写真は数年前、根岸山小屋に集まった岳人達で後列中央が根岸、その両側が山野井夫妻である。(クリックで拡大)
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一般に知られているクライマーは殆どスポンサーがついて居るが、山野井夫妻の場合は自分で働いて得た金でしか登らない。今回も費用は自分の貯金を取り崩してまかなったという。

彼らは、自分が登る目標は常に前人未踏の岩壁を自分で選ぶ。それが山野井流の方式である。今回も登攀目標は、2007年5月、夫婦でヘリから見て、また降りてその岩壁の下から確かめて選んだ。厳しい目標を選びながら、嬉々としている姿が印象的だった。登攀は8月の北極圏の白夜期と決めた。
場所は北極圏グリーンランドのミルネ島。海に流れ込む氷河の両側にそそり立つ高さ1300mの、未踏の大岩壁で、その岩壁を海の王者鯱に因んで「オルカ」と命名した。
ギャチュンカンで大雪崩に遭遇して以来、2人で登攀するのは5年ぶりという。当時は彼らのクライマーとしての活躍は終ったと誰もが思った。しかし彼らの山への想いは終ってはいなかった。今回は木本哲(さとし)氏が二人の手伝いとして加わった。

登攀は7月29日から始め、8月16日に登頂に成功した。19日を要した事になる。階段状の岩壁を600m登ってヘッド・ウォールへ、其処から400m攀じてコルへ、そして最後の300mの大難関を攀じ登ってオルカ頂上へ。

登攀時、トップ、セカンド(確保)、ユマーリング等の役割があるが、トップは先頭に立ってルートを切り開く役目で、1日目のトップはは妙子だった。妙子に先ずその先頭を担当させ、そして最後の16日はトップを泰史、木本と交代し最後の30mを妙子に任せた。妙子に最初にオルカ頂上に立たせようとの泰史の妙子への愛情を感じさせてくれる。

彼らの登攀の模様を同行のカメラマンが的確に捉えていた。カメラマンも大変だったと思うが、よくその実景を捉えていた。山野井夫妻の今までに登った山の中でカメラマンが同行したのは初めてだと思う。と言う事は、それまではカメラマンが同行できる山ではなかったし、単独登攀(ソロ)が主体だった。

彼らの生活拠点は奥多摩にあり、働きながらその合間に自宅の登攀訓練用の壁で訓練を怠らない。
今度の登攀に当って、泰史は妙子の為に、カム(ギアー)や、ハーケンを打つためのハンマーの柄を妙子の指に合う様に改造したりして周到な準備をしていた事がわかる。

彼らの山への情熱をひしひしと感じるし、これほどの岩壁を登攀しながら飄々として、山が好きで登る事が楽しいと語るのを見ていると、見ているものにも生きる勇気を与えてくれる。

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コメント

1月7日の「NHKスペシャル:伝説のクライマー夫婦」は、私も見て、感動した。
私のコメントは何時も本筋を外れたところへの物言いで済まないが、テレビの放映内容に付いてはAlpsさんの記事に正確に紹介されているし、以前に「ソロ」で読んだ知識の背景もあるので、例に依って変なアングルからの感想を述べさせて頂く。

①「スポンサーなしの、自前で稼いだ金で費用を賄って」あのような快挙を成し遂げるのは、あまり他の登山家のやらないことではあっても、言葉として聞けば、ああ、そうですか、・・といった程度である。
ところが、年収3000万円、いや1000万円台の人ならば、其処までであるが、この夫妻はあの画面に見るような生活で、所得は一桁少ない中で、なお、あの夢を追っているのが素晴らしい。

②カメラマンも偉くて、自身の存在を感得させる場面や映像は只の一駒も入れてない。
NHKの番組では、この真反対のケースをよく見掛けるだけに、感動した。

③以前の記事でAlpsさんが書いていたことだが、「登れるということ、登れたという事はとてつもない大きな情報」である。
たとえ登られたルートの詳細がわからなくとも、誰かが登ったというだけで、その山の難しさの何割かは減ることになる。
同じ意味の言葉を、ソ連が原爆実験に初めて成功した時に、米国からの秘密情報漏えいの有無に関して誰か(オッペンハイマーだったと思うが)が云っていた。
山野井が登るコースは、前人が未だ実績のない新ルートを常に目指す・・・このことは凄い事だ。

投稿: 二人のピアニスト | 2008年1月15日 (火) 04時40分

ご意見有難う御座いました。
山野井夫妻に会ってみると、その辺にいる若者と余り変らない。これが世界最強のクライマーと言われてもピンとこない。それだけ外見は目立たないし普通の人です。
しかし話して見ると、言葉や態度の謙虚さに驚く。「近頃の若い者は…」というのは彼らに限っては通用しない。この謙虚さを山に対しても持っているところが彼らの偉い所と思う。

全く別の俳句の話だが、今年の俳誌「俳句1月号」に、林翔さんが
  凩よ超ハイヒールにもっと吹け
と詠っているのが、山野井夫妻等の生活態度と対比して面白かった。

投稿: Alps | 2008年1月15日 (火) 10時04分

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