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2006年12月10日 (日)

死生観

信州の或る篤農家の話として、2005年8月に「忘れない」を、2006年5月に「生きる」を書いた。
篤農家の名前はK.H.さん。夫婦二人で精励し、親から受け継いだ田畑を守り、清貧に甘んじて昔のままの家に住み、地域に貢献して今日に到っている。
親からの田畑を手放してその金で家を新築する趨勢を横目に見ながら、頑なに農に徹し、自分を見つめ自分に誠実に生きてきた人である。

毎年丹精を込めた手作りのものを送ってくれたが、この年末にも立派な林檎を送って頂いた。ご夫婦の御歳からして、予想もしていなかっただけに驚くと共に感動した。見事な出来栄えと素晴らしい味には心が籠もっていた。
何時も達筆な書面が添付されている。今度も多少不自由になった手であろうのに、矢張り達筆な手紙が便箋4枚にびっしりと書かれていた。
061203

「矢張り小生も老齢には勝てないようです。長い間続けてきた百姓生活も終着駅に着いた感じを覚えた今年の1年になりました。
加えて若い頃から苦労をかけ続けて来た女房が昨年末、膝を痛めて杖を頼りの日常になってしまいましたので、若い連中が百姓を止めさせない様に、色々手伝ってくれていましたが年毎に気持の負担が重く感じられるようになりましたので、今年を以って一区切りをつけようと、皆に死生観の迷論を語っています。(註:ご夫婦には、お子さんがいらっしゃらないので、此処に言う若い人とは、応援に来て下さる近所の若い人達を指す)。

級友、戦友そして国鉄時代や百姓時代の友人たちと、自分には過ぎた多くの人々との恵まれた人生の渦の中で今日まで楽しく過ごして来ましたが、近年頓に多くの訃報が届くようになりました。人間一般的には長生きを希望もし、幸せだと言われていますが、多くの親しい友に先立たれ、何かしら取り残された様に生き残っている淋しさとも悲しみとも言い表せない愛惜の念を覚えるのは、矢張り人間の一つの大きな試練の宿命の様に感じている昨今です。
  朝露を踏むこと少なき地下足袋を 
        散歩に履きて畑田をまはる
振り返ると小生の一生も、百姓という自然の中で生きる環境でなかったなら、八十余歳の今日までは生きられなかっただろうと思いますが、多くのことが中途半端のままに過ぎてきてしまった自責の念を覚えています。(註:これだけ農に徹しきって生きてきた人は、私が直接会った人の中では、他に例を知らない)。

我々世代の人間が時代の流れの対応の中で、色々苦労しながら世の中を支えてきたが、現在の世相を思う時、果たして恵まれた地球環境の中で、人の心の幸せと生活の豊かさを生み出す努力をしてきたかという、最も人間の生きると言う原点を思う時、小生は大きなを感じていますが今更ながら為すべき自分の力の小ささを恥じ入るばかりです。それはともかく若い者に手伝って貰いながら実らせた林檎を一荷送ります。食味は温暖化現象の為、一味足りない事(註:そんなことはない、素晴らしい色と、信州の篤農家の丹精込めた味は最高だった)を前以て言い訳しておきます。   K.H生より」
と、書かれていた。                                     

折りしも太平洋戦争の開戦日。戦争に3年間従軍した経験のある、K.H.さんには亡くなった戦友も含めて、想い一入のものがあったであろう。

長い間苦楽を共にしてきた夫婦にとって、人間の生死という問題は、極めて身近な問題であり、特に苦労をかけた伴侶を労わり合う気持は、私には骨身に応えて身に沁みる問題である。
人間の生き方に就いてまたまた考えさせられた。

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コメント

尚童さま お電話頂き有難う御座いました。K.H.さんのような篤農家は全国何処にでもいると思いますが、このような人たちは一般的に地味な活動をしているのが常で、目立たない存在であり、又マスコミも取り上げないのが実情ですが、このような人達こそもっと日の当たる場所に出してやりたいものですね。ご本人達の気持と矛盾しているかもしれませんが。

投稿: Alps | 2006年12月12日 (火) 15時36分

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» Alpsさんの記事を見て [二人のピアニストに思う]
Alpsさんの記事「死生観」を読んだ。 今年5月のAlpsさんの記事「生きる」に、私が送ったコメントの書き出しは、 『前回の「忘れない」もそうであったが、今回「生きる」も、K.H.さんの話は感動的である。 Alpsさんの描写するK.H.さんの生き様にも心打たれるが、ご本人のお書きになる文章が素晴らしい』 と、なっている。 そして、今回の記事を読んでの感想も、それと全く同一である。   と、書いている。 昨年8月の... [続きを読む]

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