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2006年5月24日 (水)

生きる

2005年8月、或る篤農家の話として「忘れない」を書いた。

そのK.H.さんから先日アスパラが送られてきた。その包みの中に例によって手紙が入っていた。今までのような筆書きではなく、ボールペン書きだったが矢張り達筆である事に変りはない。 「リウマチ性の神経痛が年毎にひどくなり腰痛のみならず、手のふるえで文字を書くことが嫌になり殆どペンを手にしなくなりました」 と、言いながら便箋5枚に、懸命に書いたであろう文字が並んでいた。その一部には次のようなことが書かれていた。文中( )内は私の注釈を示す。

「(ペンを手にしなくなった現状に就いて) 行過ぎた文明は地球と生物が育ててきた文化をも蝕むものと、生まれながらの天邪鬼の生き方で、最近の便利主義のあり方に抗って、パソコン等も習得しなかったので、不便に耐えています。
いずれにしても3年余の戦争経験が、人生観を大きく変化させた事は事実ですが、農業が充実感に満ちた人生を産んでくれました
     節くれてふるえ止らぬ掌に
       生きとし生きし稼ぎを思ふ
……定期健診の医者に『今年も病状に余り変化が見られないので自家用農業は出来ますよ』と言われ、老農の遲い春の仕事が始まりましたが、アスパラがどうやら芽を出し始めたので少々お送りします。
作物は人間より素直で正直ですので手抜きをすると、そのまま答を出しますので、やはり今までより食味が劣るようになりましたが(そんなことはない)、安全第一の有機栽培ですので安心してお召し上がり下さい(写真は頂いたアスパラの一部)。

Asparagus

(奥さんの膝痛のことや、重作業の出来なくなったことなどが述べられた後) 80歳を越えると色々と身辺にも問題がありますが、歳歳の取り組みにそれなりの挑戦する課題を考えますと、年齢の衰えは忘れて楽しい生活を味わえる事が判りました。
随分乱暴な文章になり(そんなことはない)、失礼な手紙になりましたが、書き直しは面倒なので、唯ただそれなりに元気で今年も生きている事が判って貰えればと思います。
アスパラの食味に関係させないで下さい。
信州は良い所ですのでお子さん達にも見せてやって下さい。
     花舞いてさ緑の葉に覆れて
        生命をつなぐ実が育ちつつ 
     平成18年5月連休明け   K.H.生より皆様へ」

と、あった。送られてきたアスパラは、根元まで柔らかく、久々に本当のアスパラを賞味出来た。心を込めて作ったアスパラの味は格別だった。
篤農家の誉れ高いK.H.さんが、信州の小字で懸命に生きている姿を眼の辺りにする感じがする。       

       

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コメント

心温まる手紙ですね、その喜びを私たちにも分けてくださるアルプスさんに感謝。人を信じらられない、子供にとつたら大人は警戒すべき存在になるなんて悲しい世の中ですね。

投稿: 尚童 | 2006年5月25日 (木) 19時06分

農業一筋で、自然を愛し、自然に親しみながら篤農の誉れ高いK.H.さんのような人が多く居たらもっと潤いのある世界になるでしょうね。
尚童さんが自分の時間の多くを他人の為に奉仕している姿勢とダブッて映ります。

投稿: Alps | 2006年5月25日 (木) 22時39分

前回もそうであったが、今回もK.H.さんの話は感動的である。
Alpsさんの描写するK.H.さんの生き様にも心打たれるが、ご本人のお書きになる文章が素晴らしい。 この素晴らしさは、直接に「自然」に拘わる農業に限らず、物造りに生きた人でなければ出来ないもの(私の趣味の問題だが)と思う。
大金を転がして、今や日本を脱出する村上某のような生き様、またこの春の叙勲で最高の勲章を貰った人物の生き様は、K.H.さんに較べれば、人生を生きたとは謂えないだろう。
金や世俗的栄誉とは別の、掛替えの無い御褒美を神様から授かった方なのだろう。

投稿: 二人のピアニスト | 2006年5月26日 (金) 03時58分

K.H.さんの母親は、私の母の妹だったが実に素晴らしい人だった。矢張り彼も母の背を見つめながら育ってきた人という印象が強い。
自然を愛し、生涯農業人として努力し励んできた彼には、二人のピアニストさんの言われるように、物作りに深く携わった者と共通項がある事を私も思う。
いつかお知らせ頂いた、歌集「草の分際」の著者である、金子きみさんを想起し、真摯に生きている人たちの姿を美しいと思う。

投稿: Alps | 2006年5月26日 (金) 07時40分

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