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2005年8月17日 (水)

無言館

 続、終戦日に想う。

 旧友の送って呉れた文章の中の一節に「きけ、わだつみのこえ(日本戦没学生の手記)」に関連して、次のような感想が載せられていた。

 「近所に住む老夫妻が、『きけ、わだつみのこえ の人々は時代に洗脳された哀れな存在だ』と評したのに驚き立腹しました。私が若い時なら、ぶん殴っていたと思います。この不勉強なご主人は、元の職業柄、現代の日本ではモテル人種です。

 今のいい加減な日本社会の、物質的繁栄の内で育った若者は、まあ仕方ない。『戦争中に何故反戦運動をしなかったか』と絶叫して得意になっている学生と違って、私とそして『わだつみの人達』と、ほぼ同年代で、当時の世相を知る筈のこの夫妻のような人は、許し難く思います」と慨嘆し、世紀を越えて子や孫に、戦争とそれに纏わる忌まわしい体験を伝えてゆかねばならない使命感にも似た、語り部の役目といったものを切々と訴えかけてきた。

 

この話に関連して思い出されるのは、信州上田市の別所温泉に程近いところに、ひっそりと佇んでいる「無言館」の事です。1997年5月に開館した無言館について、澤地久枝氏は「無言の語りかけ」と題して次のように述べている。「さまざまな戦死、戦争死を生んだ戦争下の日々を全く知らない世代が多くなった。その死者の中にまだ後世に知られるほどの画歴もなく、成果も手にしていない若い画学生がふくまれていることを、ほとんどかえりみない長い月日が流れた。人生の記録、生きたしるしを、なにによって残すかという若い日のテーマ。それを絵画や彫刻など美術の世界に求めた人たち。云々」とあり、戦没画学生慰霊美術館「無言館」はこのような背景から、野見山暁治画伯・窪島誠一郎氏等の努力によって生まれた。

無言館に一歩足を踏み入れた人は、感動と衝撃とが綯い交ぜて思わず立ち竦んでしまう。

ここを訪れた俳人、有働 亨氏は、その時の感動を次のように詠っている。

   並ぶ絵は無言故山は薄紅葉

   鵙叫ぶ雑草と踏まれし君らよ君ら

   絵は無言ひそかに小鳥来てゐたり

   パレットも遺品のひとつ昼の虫

   雁仰ぐゆゑならずわが涙目は

又、同じく白澤よし子氏は

   鎮魂のさへづりなれや無言館

   花冷やふるさと描きし未完の絵

   征きしまま無言の画布よ春惜しむ

同じく川崎展宏氏は

   初桜無言館を出て無言   

 世紀を越えて、    
 私達は偶々僥倖な巡り合せで20世紀と21世紀の変わり目を見る事が出来ました。20世紀は懸命に生きてきた世紀であり、尊い犠牲のあった世紀であった事を思わずには居られません。「もはや戦後ではない」と言われて久しい今日に於いても尚、戦争によって肉親や最愛の人を失った人々にとっては戦後は今も続いている事でしょう。「きけわだつみのこえ」や「無言館」の主役が増える事のない世の中にしたいと切に願うものです。

mugonkan

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コメント

私が20世紀の末に参加したミッドウエイの慰霊祭に向かう船中で同行した講師の澤地久枝さんのミッドウェイ戦の話、沖縄戦の話、は戦闘状況の話でなく参加者、犠牲者の人間像の話であり、「無言館」の事などを含めて感銘を受けたのでした。 ところが、現地のミッドウエイの慰霊祭で、参加者の中に
 「許婚者をここで亡くして、一生を独身で通した」
という老女達を多く見て、唯一度の人生を戦争に依って無残に狂わされた人は、戦場に赴いた人、爆撃を受けた戦災者、だけでなく、こういう被害者も居たのを迂闊にも気付かなかったのを初めて知りました。
私のブログ記事「昔の人にまた逢はめやも、2」:
http://blog.goo.ne.jp/gookyaz/e/26dfcdc29519f4b5da82febbfa78cbcf
に私はその事を書きました
『独身で過ごした老女も、拉致被害者も、ニュースは一過性だが、本人にとっては一生の問題である。 
30年も前に「もはや、戦後ではない」等と、したり顔で言った日本の官僚にも、「戦争責任者も死ねば皆、仏様」と気楽な総理大臣にも、改めて怒りを覚える。  只一度の人生を独身で通した老女の悔しさ、を思わぬ日本の官僚の小賢しい物の言い方に比べて、ミッドウエイの慰霊祭で米軍関係者の思いやりに満ちた挨拶は、非常に立派なもので感動した。 あの米国軍人の様な人は日本から消えたのです』 と。

投稿: 二人のピアニスト | 2005年8月19日 (金) 18時50分

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» 無言館行ってきました。 [セミ玄人の独り言]
以前、下記で紹介した無言館(上田市)に行ってきました。戦没画学生の絵と遺品が展示 [続きを読む]

受信: 2005年10月 4日 (火) 21時37分

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